バトルロワイアルについて

TSUTAYAで漫画版バトルロワイアルを立ち読みしてきた。たしか小学生くらいのときに社会問題になったんだよなあ、コレ。その当時の刷り込みのせいか単にグロくてコワいイメージしかなかったけど、いざ読んでみると、別に大したことないじゃんか、と拍子抜けしたかんじだった。まあさすがに小学生が読むにはキツいかもしんないけども。
まあなんだろ、たしかに頭グチャグチャ、脳みそ飛び出て、内臓もついでだから飛び出してみちゃったりと描写そのものはすごいエグいんだけど、そこがイマイチ読むこちらの恐怖感に結びついてこないんだよなあ。うわっキモっ。で、終わり、みたいな。真に迫るものがない。こういうストーリーで読み手に恐怖を感じさせられないのは致命的だとおもう。てことで面白いか面白くないかでいうとあんまり面白くなかった。
唯一不快になった、つまり恐怖を感じたシーンはやっぱり灯台で女子たちが殺し合いを始めてしまうところかなあ。あそこはよかった。あのグループのなかに「悪」はいませんからね。あるのはほんのちょっとの「疑心」だけで、それを持ってしまうこと自体は決して「悪」ではないでしょう。ましてやその疑心はプログラムによってなかば強制されたものなんですからね。でもその今まで抑えられてきた「疑心」がささいな誤算をきっかけに暴走をはじめ、殺し合いに発展してしまうという。極限状態における仲良しグループの一瞬の崩壊。こわっ。だっていかにもあり得そうじゃないですか。現実に似たような状況に置かれたら。その意味で、この場面が一番「クラスメートに殺し合いさせる」という残酷な設定を活かせているとおもう。

とまあそういうわけで、ぼくはこの物語に平和な日常では見られない、ニンゲンの内に潜む「狂気」みたいなのを炙り出してくれることを期待してたんですけどね。いたって普通だった生徒たちが殺し合いを強制されるうちに、他人を信じられなくなっていき、自分だけは生き残りたいという生存本能にからめとられて、狂気に陥っていく……みたいな。そのなかで、いかに人を信じうるのか、みたいな。まあその期待をいい方に裏切ってもらえればさらに良かったわけですけど、わるい方に裏切られました。エンタメ作品なのにそんなブンガク的に読まれても困るんですけど、って言われたらそれまでですけど、それにしてもあの桐山和雄と相馬光子はナシでしょう。こいつらが登場しただけで、あ、もうこのヒト殺されちゃうんだ、ってわかっちゃって相当しらけたからね。正直このふたりは作者が人数をサクサクっと都合よく削っていくための物語上の道具にしか思えなかった。一般生徒同士の戦闘なり口論なり、そういう何らかの葛藤があって、ようやく収まったと思ったら桐山or相馬が登場してお役御免、ですからね。ほとんどそれの繰り返し。ワンパターン。トゥマンネー。ゲームにノリノリの冷酷殺人鬼を二人も登場させちゃせっかくの設定が台無しじゃん。グロい絵だけ提示されたってこちとらなんの恐怖も悲しみも共感も湧いてこないんだよ。うわキモっ、で終了。桐山と杉村の戦闘シーンとかもうカンペキ趣旨かわっちゃってるからww耐えきれずに読み飛ばしちゃいました、すいません。

あともうひとつ、いまいちノリきれなかった理由として、プログラムに突入する前の描写が短かすぎってのがあるかなあ。平和な世界では普通に暮らしていただろう人々が極限状態まで追い詰められた末殺しあう、みたいな設定ってじつはそんなに珍しいものじゃないんですよね。ぼくが読んだだけでもゴールディングの「蠅の王」とかサラマーゴの「白の闇」とか。ただこれらとバトロワが決定的に違うのは、殺しあう人間たちが「以前から知り合いだった」ということだ。彼ら彼女らのなかにだってもちろん仲良しグループや浮いている人、対立構造とか複雑な人間関係はあったにちがいないが、まあ殺人事件なんてものはほぼ間違いなくおこらないでしょう(桐山・相馬は存在しないという前提で話を進めています)。そんな「普通」のクラスが、いきなり殺人ゲームに放り込まれる、という理不尽。その理不尽さを読み手に実感させるためには、やっぱりもうちょっと三年B組の日常を丁寧に描写していく必要があったとおもう。それもなしに主要人物以外は名前もわからないままプログラムを開始されても、主人公たちの動揺・怒り・恐怖になんか温度差感じちゃうだけですわ。その点をしっかりしとけば初っ端で主人公の幼馴染が殺されるシーンもより劇的になって、プログラムの鮮やかな幕開けとなったんじゃないのかなあ、と。

要するにアイデア倒れになっちゃってる感があるんだよね。せっかくの突飛な設定がぜんぜん活かせてない。上記の二点だけでもちゃんとしてればそこそこ楽しめるものになったんじゃないかなあとおもいます。もしかしたら原作の小説はちゃんとしてるのかもしれませんけど。ただ、心から楽しめるか、といったら微妙だとおもう。これはバトロワに対する、というよりは戦闘モノ全般、ひいては物語そのものに対する批判になっちゃうんですけど、そしてびっくりするくらい素朴な意見なんですけど、主人公はぜったい死なない、という大前提が頭のなかにチラついているかぎりぼくはそれを絶賛できないんですよ。とりわけこのバトロワの場合、「最後の一人になるまで殺しあえ」ってルールでしょ。てことは、主人公その周辺以外はたぶんみんな死ぬんだろうなあ、と最初に予測できる。で、案の定死ぬ。一巻につき3,4人の勢いで。もう人殺しのインフレ状態ですよ。殺人大安売り。出血大サービス。ついでに脳みそも飛び出してみたり。必然的に一人ひとりの死に対する衝撃度は薄くなっていきますわな。だから、いままで設定そのものはイイみたいな感じで話すすめてきましたけど、そこも実を言うとびみょーですね。設定聞いた段階ではセンセーショナルではあるけど、いざ読むとやっぱり人、死にすぎですよ。白ける。桐山・相馬効果で一層白ける。ゲームのルール聞いて最初にビックリ、で、あとはその設定をひたすら消費していくだけっていう、要するに出オチなんですよね。商業的には成功なんだろうけど作品的にははっきりいうと駄作です。死にすぎはダメだね。教育上とか倫理上とかそう意味ではもちろんなくて。
主人公が死なないとわかるからつまんない、って、それを言っちゃオシマイでしょ、って話でしょうけど、だったらぼくは、それを言っちゃって、オシマイにしたいです。まあ物語という表現方法に対する難癖つけはじめるとを長くなるんで、そのうちまたかきます。

個人的に気に入ったキャラは旗上忠勝と月岡彰かな。自分がもしプログラムに参加するとしたらこのふたりのような行動をとるんじゃないかと。つまり優勝しそうな奴のケツをひそかに追っかけるか、信頼できそうな奴と手を組み、出来なさそうな奴には銃を向けるか。ネット上だと旗上は嫌われ者らしいけど、何故? まあ人気者ではないだろうけど嫌われる理由もないでしょう。むしろ人の話を冷静に聞けるなかなかの知性の持ち主だとおもったけど。相馬を信頼できない理由もちゃんと根拠付きのものだったし。ただ欠点は若干優柔不断だったこと、そして性欲が人並み以上であったことですかね。
ちなみに主人公とヒロインもけっこう嫌われてるらしいけど、こっちは理解できる気がするw 漫画のなかでもやたら熱血正義バカって言葉が強調されてるけどまったくその通りですよ。それ以上でもそれ以下でもないっていう。最後のシーンで政府欺くために川田が芝居で「お前らを利用させてもらった」的な発言するけど、嘘バレバレだからね。だってぜんぜん利用できてないww 唯一七原が役に立ったのってあの手榴弾空中キャッチっていうミラクルパフォーマンスかましたときだけだから。仲間も結局集められてないし。ヒロインの中川典子に関して指摘しときたいのはまあひとつだけ、七原を賛美するときの「真っ直ぐに生きてやるぞおーッていうエネルギー」って言葉、うん、まあ、言いたいことはすごく伝わるんだけど、ちょっと言葉のチョイス、幼稚すぎません? ていう。 なんか隣のトトロのメイちゃんの声で脳内再生されるんですけど、ていう。「おーッ」あたりが個人的にすごいツボなんですけど、っていう。